南紀白浜空港にて
昨年9月13日南紀白浜空港で行われた南紀白浜空港空の日フェスタ2014。そこでの展示のため白浜に飛来した陸上自衛隊のAH-64D 74505号機の写真を掲載します。
恐らく白浜には初飛来となったAH-64D、自分も久々に見られて嬉しかったですね。そのため沢山写真を撮影しており、前後編に分けて掲載したいと思います。と言っても今回だけで55枚あるのですが。
AH-64Dはアメリカで開発されたAH-64Aを大幅に改良した派生型で、数々の作戦に投入され世界最強の攻撃ヘリと呼ばれるまでになったAH-64Aの第2世代として開発されました。開発はマグドネル・ダグラス、現在はボーイングが製造しています。
当初AH-64Aの改修はGPSの搭載、FCS、通信機器、ローターの改良を行うAH-64B計画が立てられていましたが、その後にロングボウ・レーダーの搭載やコクピットの改良を行うAH-64C/D計画が立てられ、AH-64B計画はそちらに吸収されています。
AH-64CとAH-64Dの違いはロングボウ・レーダーを搭載しているか否かですが、後にレーダーを搭載していない機体も統一してAH-64Dと呼ばれるようになりました。
AH-64Dの最大の特徴が上記のAN/APG-78ロングボウ・レーダーで、これにより戦闘能力を飛躍的に向上させています。目標の捜索・捕捉・照準の他自動的に脅威度を判定してリストアップすることも可能です。愛称の「アパッチ・ロングボウ」はこれが由来。
また陸上自衛隊向けのAH-64Dには機首先端部にアローヘッドシステムという赤外線センサーが取り付けられており、システムは操縦用センサー、画像増強装置、目標指示可能なFLIR、TVカメラ、レーザー照準装置、レーザー追跡装置で構成されています。
アローヘッドシステムでは従来よりも高画質の赤外線画像が得られるようになり、より遠距離での敵味方の識別などを容易にしました。
武装は固定武装として機首下のターレットにM230 30mm機関砲が搭載されており、この機関砲はAH-64A向けに開発された物です。
また対戦車ミサイルとしてAH-64Aに引き続きAGM-114ヘルファイアを搭載可能ですが、AH-64Dでは発展型のAGM-114K/L ヘルファイア?鵺に変更されています。
AGM-114Lはロングボウ・レーダーと並行して開発されており、ロングボウ・レーダーで得られた情報を基にアクティブレーダー誘導で誘導され、発射母機はセミアクティブレーザー誘導のようにレーザーを照射し続ける必要がないので、撃ちっ放し能力を持つことになりました。
AGM-114Kはセミアクティブレーザー誘導ですが、従来よりも対妨害性が上昇したシーカーを搭載しており、タンデム弾頭なども搭載し射程が伸びています。
ロケット弾はこちらも引き続きハイドラ70を使用することが可能で、19発を収容するM261発射ポッドが使用されます。ポッドは最大4基を搭載可能。
陸自向けAH-64Dの特徴としてAH-64シリーズで初めてFIM-92 スティンガーの空対空バージョンであるAIM-92 ATASを搭載可能とした点があり、限定的な空対空戦闘能力を備えています。
戦闘ヘリという性格上機体には生存性を高めるための設計がなされており、操縦席周辺には装甲板が装着され、強化構造のフレームが乗員を保護するよう設計されています。
被弾時に2名の乗員が同時に負傷することを防止するため、前席と後席の間には透明なシールドが設置され、主脚や機関砲、胴体下部は墜落時の衝撃を吸収する構造とされました。
エンジンは片発飛行時でも1800shpで30分間、1890shpで10分間飛行を続ける事が可能で、トランスミッションは潤滑油をすべて失っても30分は作動する事が可能。
エンジンにはゼネラル・エレクトリックが開発したT700-GE-701Cが2基搭載され、陸自向けはIHIでライセンス生産されたT700-IHI-701Cを搭載しています。
現在アメリカ陸軍では620機を運用しており、その他イギリス・イスラエル・エジプト・オランダ・ギリシャ・クウェート・サウジアラビア・シンガポール・台湾、そして日本で運用されています。
イギリス陸軍の機体は「Apache AH Mk.1」と呼ばれ、エンジンの変更や揚陸艦での運用能力など独自の改良を行ったタイプで、オランダ空軍の機体はロングボウ・レーダーを搭載しないタイプ。
陸上自衛隊では90機を導入したAH-1Sの後継としてAH-1ZとAH-64Dを候補に挙げ、選定の結果2001年8月27日にAH-64Dの採用が決定しました。
富士重工業によるライセンス生産で最終的に62機を調達する予定でしたが、毎年数機しか調達できず価格が高騰したことやボーイングでのAH-64Dブロック?鵺の製造が終了したことなどの影響を受け、最終的に13機で調達は終了しています。
現在実戦部隊としては唯一、目達原駐屯地の第3対戦車ヘリコプター隊第2飛行隊に配備されており、その他明野駐屯地の航空学校、霞ヶ浦駐屯地の航空学校霞ヶ浦校に配備されています。
写真の74505号機は5機目のAH-64Dとして調達された機体で、明野駐屯地の航空学校に配備されている機体です。
右側面から撮影した74505号機。
正面から撮影した胴体部。
後方から撮影。
テールブーム。
ローターマスト上部に取り付けられたAN/APG-78 ロングボウ・レーダー。このレーダーは35GHz、94GHzのミリ波を使用したレーダーです。
ミリ波レーダーは比較的近い距離しか探知する事が出来ませんが、ヘリ程度の速度では遠距離の探知は必要なく、高い解像度を得られるため目標が密集していても個別に探知・攻撃する事が可能となっています。
最大探知距離は静止目標で6km、動目標で8~10kmで90度を6秒で走査します。通常の走査範囲は前方270度ですが、必要に応じて45度・30度・15度と細分化して詳細な走査が可能。
最大1024目標を探知する事が可能で、256目標を捕捉、装軌車・装輪車・対空車両・航空機・ヘリの5種類に分類し、自動的に脅威度の高い順にリストアップし表示することが可能です。
上記は対地モードの動作で、その他には対空モードと地形プロファイルモードがあります。対空モードでは360度の走査を行い、地形プロファイルモードでは2.5km以内の地形の起伏を測定、暗視装置を補完することで匍匐飛行を容易にしています。
ロングボウ・レーダーの下にはAN/APR-48Aレーダー周波干渉装置のセンサーがあり、レドームの下の黒い丸がそれです。
この装置は自機に対して発せられたレーダー波を探知し、予めプログラムされたレーダー波と照合して、そのレーダー波の発信源の位置や発信機材を特定する事が出来ます。
AN/APR-48Aで得られた情報はレーダーの情報と共に脅威度の判定が行われ、ディスプレイに表示されます。そしてその情報を基にヘルファイアによる攻撃を行うことが出来ます。
アローヘッドシステム。AH-64Aでは目標捕捉・指示照準装置と操縦士用暗視装置を搭載して全天候戦闘能力を向上させましたが、実戦に参加する内に解像度の不足が問題となり始めました。
そこで2003年に開発されたのがアローヘッドシステムで、第二世代FLIRと電子式画像安定化により解像度が大幅に向上しています。最大6目標を同時追尾可能で、主目標にサイトを固定する事もできます。
表示装置も従来の接眼式サイトからディスプレイへと変更され、視認性を高めると共に機体周囲の状況にも注意を払うことができる様になりました。
上部の操縦士用暗視装置のセンサー。その手前の複雑な形をしたパネルのような物はEWアンテナ。
下部の目標捕捉・指示照準装置。手前側にはレーザー測距儀・照準装置、TVカメラが搭載されており、奥側にはFLIRが搭載されています。写真はどちらも格納位置で、レンズ面が見えていませんね。